エンタルピーとは
はじめに
まず基本となる熱力学の3つの法則を知る必要がある。
ここで内部エネルギーUは系のエネルギー総量のことで、分子運動や配置から生じるエネルギーを含む。
- 第一法則(エネルギー保存の法則)・・・\(ΔU=Q+W\)。
内部エネルギーの変化ΔU は、系が周囲と交換する熱(熱が系に入る場合は正、系から出る場合は負)と系が周囲に対して行う仕事(仕事が系に対して行われる場合は正、系が周囲に対して行う場合は負)によって与えられるというもの。エネルギーは形態を変えるだけで生成や消失はしない。 - 第二法則(エントロピー増加則)・・・孤立系のエントロピーは増大するか、または一定である。孤立系での自発的な変化はエントロピーが増大する方向に向かう。
- 第三法則・・・絶対零度で完全な結晶状態にあるすべての元素のエントロピーはゼロである。
エンタルピー、エントロピー、自由エネルギーをまとめて理解する(動画)
エンタルピーの定義
エンタルピーは生体内(一般に等温等圧過程と見なすことができる)で起こる化学反応において熱の変化を考えるときに使用される。単位はジュール。
例えば、内部エネルギーは熱力学第一法則より、熱と仕事の和で表すことができるが、仕事Wが0となる体積一定の等積過程であれば、ΔU=Qとなり、内部エネルギーの変化を熱Qのみで表すことができる。
仕事Wが0にならない生体内の化学反応では、内部エネルギーを熱Qのみで表すことができない。そのため、等圧過程において熱Qのみで表すことのできる内部エネルギーに変わるエネルギーとしてエンタルピーというものが生み出された。
例えば、生体内(等圧過程)でATPがADPとなる反応(ATP+H2O→ADP+Pi)では、ATPが約30kJ/molの熱を失ってADPとなる(ATP+H2O→ADP+Pi+30kJとなり、ΔHは-30KJ)。
この失った熱は通常ΔHとして考えるわけだが、ΔUとして考えると、失った30kJは熱と体積縮小の時に発生した仕事分が足されたエネルギーとして考えるので純粋に熱で表すことができない。
そこで、仕事で失ったエネルギーWを、PΔVを足し合わせることにより打ち消して、Qだけを考えることができるエンタルピーというものを定義した。
なので、一般的な化学反応で発生したり、失ったりする熱は、内部エネルギー変化の熱部分だけを取り出して仕事は考えないようにしたエンタルピーで表されている。
エンタルピー\(H\)は以下のように定義される。
\(H=U+PV\)
\(U\)は内部エネルギー、\(P\)は圧力、\(V\)は体積。
エンタルピーの変化ΔHは、等圧条件下において、以下のように定義される(VΔPが0と見なせるため)。
\(ΔH=ΔU+PΔV\)
等圧過程においては、PΔVは系がする仕事であるため-Wとも書ける。
ここで注意したいのはPΔVの部分である。
熱力学第一法則で表す仕事\(W\)は、\(\int_{V1}^{V2} Pdv\)のことであり、必ずしも\(PΔV\)、すなわち\(P(V2-V1)\)とは限らない。
エンタルピーの変化の式におけるPΔVが仕事Wと見なせるのは等圧過程の時のみである。
なぜなら、\(PV=nRT\)より、等温過程の場合ではPをVの式で表すと反比例の曲線グラフになるため、面積(仕事)を正方形で計算できないが、等圧過程の場合ではP=定数の直線グラフになるため、面積(仕事)を正方形で計算できる等、条件によりPΔVが仕事になるかならないかが変わるからである。
ここを理解したうえで、\(ΔH=ΔU+PΔV\)に熱力学第一法則\(ΔU=Q+W\)を当てはめると、
\(ΔH=Q+W+PΔV\)となる。
先に説明した通り、等圧条件下ではPΔVが仕事と同じなので、PΔVを-Wと書き換えて(PΔVが仕事を表すとき、した仕事が正でされた仕事が負。仕事Wは、した仕事が負、された仕事が正のため)、
\(ΔH=ΔQ\)
すなわち、エンタルピーの変化ΔHは、等圧過程において熱エネルギーの変化を示す。
一方で、内部エネルギーの変化ΔUは、先に述べたように等積条件下では第一法則の\(ΔU=Q+W\)により、体積が一定の場合、体積変化による仕事Wが0であるため、\(ΔU=Q\)となる。
すなわち、内部エネルギー変化ΔUは、等積過程において熱エネルギーの変化を示す。