エントロピーとは

はじめに

まず基本となる熱力学の3つの法則を知る必要がある。

ここで内部エネルギーUは系のエネルギー総量のことで、分子運動や配置から生じるエネルギーを含む。

  • 第一法則(エネルギー保存の法則)・・・\(ΔU=Q+W\)。
    内部エネルギーの変化ΔU は、系が周囲と交換する熱(熱が系に入る場合は正、系から出る場合は負)と系が周囲に対して行う仕事(仕事が系に対して行われる場合は正、系が周囲に対して行う場合は負)によって与えられるというもの。エネルギーは形態を変えるだけで生成や消失はしない。
  • 第二法則(エントロピー増加則)・・・孤立系のエントロピーは増大するか、または一定である。孤立系での自発的な変化はエントロピーが増大する方向に向かう。
  • 第三法則・・・絶対零度で完全な結晶状態にあるすべての元素のエントロピーはゼロである。

エンタルピー、エントロピー、自由エネルギーをまとめて理解する(動画)

エントロピーの定義

エントロピーには異なる側面から見た統計力学の観点からみた式と熱力学の観点からみた2つの式が存在する。

1つ目の式:エントロピーSは統計力学的に以下のように定義される。

\(S=k_B lnW\)

\(S=k_B\)はボルツマン定数なのでただの定数、\(ln\)は自然対数を底にとったlog、\(W\)は一言でいえば乱雑さと呼ばれるものですが、詳しく言うと、マクロ状態に対応するミクロのものの取りうる状態の数を示す。

マクロ状態というのは、特定の体積や温度、圧力といった状態を指します。ミクロのものというのは、原子や分子などのことを指す。

例えば、圧力温度一定で体積を2倍にした場合、マクロな視点では体積が2倍になっただけですが、それに対応する原子や分子のようなミクロのものは、動く方向、回転、速さなどがそれぞれ異なるため、取りうるエネルギーレベルもそれぞれ異なり、N個の粒子があればN個それぞれのエネルギーレベルの組み合わせに対応するミクロのものの状態数(W)がある。

2つ目の式:初期状態から最終状態までのエントロピーの変化\(ΔS\)は熱力学的には以下のように定義される。

\(ΔS=\int \frac{d'Q}{T}\)(積分形)

\(d'Q\)は可逆的な熱交換の微小な変化、\(T\)は系の絶対温度。dに'はプライムと呼び、特定の過程のみの熱の意味。

この式が成り立つのに準静的過程の時のみという条件があることに注意する。(だからdQにプライムがついてる)

\(dS=\frac{d'Q}{T}\)

は微小な変化に対応した微小なエントロピーの変化を表している形。

水に熱が加わると分子の動きが活発、すなわち乱雑になる。その乱雑さは温度Tが低い時の方が乱雑になりやすい(温度が低い時の方が初期状態の乱雑さが少なく、より乱雑になりやすいと言えるため。)という意味。乱雑さを引き起こすのは熱であり、系全体の温度が低く分子が密集している状態の時の方が熱による分子の散らばりやすさが大きい。

エントロピーはいわゆる乱雑さの指標であり、エントロピーの変化は特定条件下(ΔHを0とでき、自由エネルギーをエントロピーのみで表せる時=等圧過程で孤立系(=断熱過程)の時)での自発的変化の方向性を示す。それ以外の条件での方向性はギブスの自由エネルギー(ΔG=ΔH-TΔS)を用いる。

ΔSが0よりも大きい(ΔS>0)時にその反応は自発的に(不可逆に)進み、やがて平衡状態(最も乱雑になっているエントロピーの最大値)へと向かう。

準静的過程以外の時はこの式を使えないが、かといって準静的過程の時だけしかエントロピーが変化しないというわけでもない。

この式を使って準静的過程以外(熱平衡状態ない非準静的過程時)でのエントロピー変化を直接求めるのは難しい。そのため、エントロピーが状態量であることに着目し、実際の非平衡過程を代わりに何らかの準静的な過程に置き換えて計算する。(最初と最後の状態が同じもの断熱自由膨張→等温準静的過程への置き換えなど)

この条件があるおかげで、エントロピーが非常にわかりづらいものになっている。そのため、用語を整理する。

準静的過程

熱力学における準静的(または可逆的)過程とは、系が常に平衡状態に近い状態で変化する過程のこと。

100℃と10℃の水槽を接しさせて徐々に全体の温度を55℃に近づけるとき、通常接している部分から近いところと遠いところでは温度が異なるはずで、系の乱雑さにムラがある状態である。平衡状態で変化させるということはこうしたムラの部分をなくした上で徐々に熱を移動させて全体を55℃に近づけていくというイメージ。移動させる微小な熱がdQに相当する。

非準静的(不可逆)な場合は、まばらな状態で変化するのはもちろんのこと55℃の平衡状態でも止まらず、片方が100℃が10℃に、10℃が100℃になるような状態も可能となる。このような過程ではエントロピーを上の式では計算できない。

孤立系

熱力学第二法則は、エネルギー変換の方向性や自然の過程の進行方向に関する法則で、表現方法がいくつかあるが、そのうちの一つがエントロピーの原理であり、「孤立系のエントロピーは、自然の過程において増加するか、または一定のままである。すなわちΔS≧0。」というものである。宇宙のエントロピーが増加するという宇宙の時間的非対称性の根底にある原理。

第二法則が成立するのにも、孤立系の時という条件がある。

孤立系とは、その境界を通じて外界と物質やエネルギーの交換が一切ない系を指す。孤立系は外界とは独立していて外界との交換がないため内部エネルギーや質量などは一定である。

またよく出てくる用語として、断熱過程というものがあるが、孤立系は常に断熱過程ですが、断熱過程を行う系が孤立系は限らない点は注意する。例えば、体積が固定されている断熱容器のガスは、外部との物質の交換はないが、仕事の形でのエネルギー交換が可能。

ここまでのまとめ

以上を知ったうえで整理すると、

  • 準静的過程(=可逆過程)においてのみ、\(ΔS=\int \frac{d'Q}{T}\)を用いてエントロピーの変化を計算できる。また、準静的過程においてのみ、エントロピー変化で=(等号)が成り立つ。
  • 準静的過程(=可逆過程)では、系と外界を合わせたエントロピー変化ΔStotalはゼロになる。系が熱を吸収するとその分だけ外界のエントロピーが減少するため、全体としてのエントロピー変化はゼロに保たれる。計算しているエントロピー変化が系だけなのか、全体なのかを把握することがすごく重要。
  • 孤立系(=断熱過程)では、エンタルピーの変化ΔHはゼロである。
  • 孤立系(=断熱過程)では、エントロピー変化はΔS≧0(熱力学第二法則より)。この式でΔS=0が成り立つのは、孤立系かつ準静的(可逆)過程においてのみである。
  • 孤立系(=断熱過程)でない場合でも、準静的過程であれば系と外界を合わせた全体でのエントロピー変化はゼロになる。
  • 孤立系(=断熱過程)で、非準静的(非可逆的)過程においてはエントロピーは増大する。断熱過程なので熱の移動がないためdQがゼロになってしまい\(dS=\frac{d'Q}{T}\)でエントロピーの変化が計算できない。そのため、等温準静的過程のようにこの式を使える条件に置き換えて計算すると、正であることが確認できる(詳細はヨビノリさんの動画参照)
  • 直接外界からの熱の出入りがなくても、断熱的自由膨張(真空の部分とガスの部分に分かれた容器があって、中央の仕切りを突然取り除いた場合)のように、明らかにガスの突然膨張で乱雑さであるエントロピーが増大しそうな例もある。このような過程でのエントロピー増加は系内部のエネルギー再分配や乱雑さの増加に起因する。
  • マクロの状態(体積・温度・圧力など)が変化してエネルギーの再分配が行われれば、マクロのものに対応するミクロのものである分子や原子にエネルギーが分散されるわけだが、その際にエネルギーに対応するミクロのものの数W(可能な配置の数=N個の粒子に対して動きのパターンやエネルギーレベルの数を対応させた数)は増加する。これが熱移動がなくてもエントロピーが増加することを示す理由の一つ。

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